第8章 心から愛した
───バンッ。
焦った様子で扉を突然開けたのは、村人だった。
走ってきたのだろうか、肩で呼吸をしながらワーカの名を呼ぶ。
「そ、村長、大変です…!何者かが村に襲撃に───!」
彼が言葉を言い切る前に、鈍い音が耳を劈いた。
彼がどさりとその場に倒れると、扉の奥から光が差し込む。
あれは一体何の光だろう?眩しくて、暖かくて、朗らかで。
まるで太陽のように優しい、4人のシルエットが浮かび上がる。
……あぁ、あれは───
「恋奈」
『お待たせ』
私が心から愛した、王子様だ。
「シルク、モトキ、ぺけ、ンダホ…みんな……っ!」
彼らの顔を見た瞬間、安堵と罪悪感が心の底から湧き出る。
瞼の裏に押し込んだはずの涙が、枯れる気配も感じさせないまま流れ出ていった。
ごめんなさい。
ほんの一瞬でも生きることを諦めてしまって、本当にごめんなさい。
謝罪の言葉が嗚咽となって部屋中に響いた。
彼らはそんな私を見て、微笑んでくれたような気がした。
〝大丈夫〟そんな強い言葉とともに。
「なっ……!」
予想していなかった王子たち4人の登場に、ワーカの目が大きく開く。
先ほどまで私が注射を打たれる様をまじまじと嬉しそうに見ていた村人たちが、一斉に彼らに向け槍を構えた。
微かな衣擦れの音さえ許されない空気が張り詰める中、微動だにしない、注射を持つ手。
───今しかない。
もう、私は言いなりになんかならないって、決めたんだ。
「ゔっ?!」
椅子をぐっと後ろに倒し、反動でワーカのお腹を力強く蹴った。
縄が手首に食い込んで、じわじわと痛みが襲う。
私は生贄になんかなってあげない。
誰も生贄になんかさせない。
これまでも、そしてこれからの復讐の意味を込めて。
からん、と注射が地面に落ちた音が響いたのを合図に、彼らは槍を構えた村人たちを華麗な手つきで倒していく。
その一方で、私が縄を外すのに苦戦していると、モトキが隙を見て駆け寄ってきてくれた。
「恋奈!大丈夫?!何もされてない?!」
器用に縄を外しながらモトキが言う。
私が大丈夫だよと二つ返事すると、
「よかった…本当に間に合ってよかった……」
と、彼が言った。
モトキの泣きそうな顔、初めて見たかも。
こんな状況なのに、くすりとなった瞬間だった。