第7章 私の王子様
シルクside___
コンコン、とノックの音が静かな廊下に響く。やけに虚しい。
そのノックに反応する声は聞こえなくて、どうにも不安になった。
「……恋奈」
とりあえず名前を呼んでみるが、返事は無い。
やっぱり、来なかった方が良かったかもしれねぇな。
恋奈は何を思ってあの涙を浮かべてたんだろう。
それすら分からない俺は、多分、王子失格。
「は、ぁ…」
力無いため息がこんこん、と星が空から落ちてくるように音を立てて地面に染み込んでいく。
……あの時と同じになるのは嫌なんだよ…。
モトキから聞いた、というより、モトキの推測も含めて。
ソアとイズカが手を組んでいて、俺と恋奈の二人に根も葉もない嘘を吹き込んだ。
俺も彼女も、他人のどうでもいい嘘で苦しい思いをしたんだと思うと、ごちゃっとした雑な感情が胸をいっぱいにした。
モトキから推測を含めての話を聞いた時は、もう何も考えられなくて。俺は衝動的にソアとイズカの部屋へ向かってしまっていたけど、モトキにそれを止められた。
〝恋奈のこと、誰よりもお前が一番分かってるんでしょ〟
すぅっと、冷たい空気が肺を通って怒りを覚まさせた。
俺は恋奈のこと何にも分かっちゃいない。モトキはそれをも見透かして、俺に全てを譲ってくれたのかもしれない。
そう思うと、居ても立っても居られなくなった。
「恋奈……ごめん。
自分でも勝手だなって分かってるよ。でも、もう、守りたい人は恋奈しかいないから───」
一通り喋って、ふと気付いた。
扉の前に人が居る気配がない。まるで誰も吸っていない新鮮な空気に喋りかけているような違和感を覚えた。
「恋奈?………恋奈!」
不安な思いをかき消すために、扉を勢いよく開ける。
なぜ鍵がかかっていないのか不思議だったけど、その疑問も全部ありのままの光景が解決してくれた。
あぁ、また俺は────
「……恋奈、」
一生償い続けなければならない罪を背負ってしまった。
〝あなたのお姫様は私が頂きました〟なんて言うかのように、窓は全開になっている。風がカーテンを揺らした。
ここに恋奈がいないのを証明するために。