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生贄のプリンセス【Fischer's】

第7章 私の王子様


「───…ぅ……」

頭が痛い。ぼんやりとした光が見える。
視界にピントがゆっくりと合っていく。私はその光景に絶望しかなかった。

ここは私の故郷。
ここは私を生贄にした場所。

あぁ、私。また生贄になったんだ……


「起きたか?」

突然隣から声をかけられる。
その声に全身が反応して、固まってしまった体。ギギギと錆びた音を立てるみたいに私は首を動かした。

「宗…馬……」

彼は、私を鋭い目つきで見据えていた。
幼い頃、転んでしまった私に手を差し伸べてくれた時の彼とは違う。

宗馬はワーカと同じ光のない目をしていて、自分の視界しか、自分の世界しか信じないような盲目さを感じる。
宗馬は、変わってしまったんだ。

彼は先ほどよりも強く私を睨みつけ、

「俺の名前を気安く呼んでんじゃねえよ、この逃げ出した生贄が。」

まるで唾でも吐くかのようにそう言った。

生贄だと知ったあの瞬間の彼の顔が思い浮かぶ。
仕方ない、しょうがない事なんだ、なんて、そんな思いで無くなっていい命なんてないはずなのに。

私を生贄に仕立て上げたのは、皆だ。

怒りが腹の底からぐちゃぐちゃの言葉になって出てきた。

「あの時助けてくれなかったのは宗馬じゃない……!
皆に必要ないって価値をつけられた命を守る事の何が悪いのよ!!」

グッと前に身を乗り出す。


───その時、手首に異様な痛みが走った。

「っ……?!」

驚いて振り返ると、私の手首はギチギチと擦れ合うようにきつく縄が縛られていた。縄は建物の柱にくくりつけられていて、動いても動いても解けない。

「なぁ、もう分かっただろ?」

彼は私の顎に手を添え、顔を強制的に彼の方へと向けさせられた。
彼はうっすらと微笑みを浮かべ、

「もうここからは逃げられないんだよ、生贄。」

私にそう言い放った。
私は彼から目線を一切離さなかった。怖気付いたなんて思われたくない。

「……冗談じゃない」

声は震えていたけど、私は確かに宗馬を睨みつけた。
彼は一瞬豆鉄砲を食らったような顔をしたけど、すぐにふっと笑った。


私は絶対に負けない。
生贄になんか、もうなりたくない。

ここから何分、何時間、何日、何年かかったとしても、絶対抜け出してやる。


───……私は〝元〟生贄のプリンセス。

レーディ王国の姫だ。
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