第7章 私の王子様
私の叫び声は、そのまま空気に溶けていく。
私がワーカをじっと見つめていると、ワーカの黒い瞳は徐々に下へ下がってきて、バチッと視線が合わせられた。
「そう───」
口角が糸で操られたかのように吊り上がっていく。
三日月型になっていく目に、月のような光は一切なかった。
人間味のない、まるで見本のように作られた人工的な顔に恐怖を感じたのも束の間。
「安心して?力づくでもあなたを幸せにしてあげるわ」
耳元で囁かれたこの言葉は、決して幸せの予兆ではなかった。
突如現れた第三者に、私は羽交い締めにされる。
「っ?! 嫌、やめて……っ!」
必死の抵抗は虚しかった。
暴れ回っても、暴れ回っても、細い腕が私の体に絡みついて離れない。相手も私の抵抗に苦戦しているのか、相手の息遣いが耳元で聞こえた。
ワーカはじっと目の前の光景を見つめ、ただ、微笑む。
彼女は私の知っている母親じゃない。
そんな事は最初から分かっていたけれど、それを受け入れる心はどこにもなくて。
ねぇ、あのとき私を愛し育ててくれていたのは、一体誰だったの?
涙がじんわり熱くなって、溢れ出た。
海に溺れたような視界になった時、背中から声がした。
「早く口を塞いで!」
いつかどこかで聞いたことのある、女性の凛とした声に気をとられてしまったのかもしれない。
突然、私の世界が真っ暗闇に閉ざされる。その手に暖かさなどない。
恐怖が極限に達した時、ただ私が叫んだのは。
「助けて───シルク……!」
愛しい彼の名前だった。
シルク、二度目はないと思っていたけれど。
お姫様にはもうなれないかもしれないけれど。
私はお姫様なんかじゃないけれど。
───私をもう一度暗雲の世界から救ってください。
そう願うと、私の口に何かゴワゴワとしたものが押し付けられる。
今度こそ、私は暗雲の世界に引き戻されてしまった。