第5章 今更
シルクside____
「これ以上、こいつに触れんな」
俺は、相手を睨みつけた。
探し回って、もうここにはいないかもしれないと思うまで探し回って、ようやく姫を見つけた以上、誰にも渡すつもりはねぇ。
傘を差しても、どうにもならない程の雨が降っている。
冷たい空気を読んだのか、雨はもっと強くなった。
男達は、俺やこの空気に怖気ついたのか、舌打ちをして去っていく。
恋奈から、男達の手が離れた途端。
足の力が抜け、彼女は倒れこんだ。
ぎゅっと抱きしめれば抱きしめるほど、嫌なくらいに冷たさが伝わってくる。
俺らは、結局重い荷物を彼女に背負わせてしまう、最低な奴らだって事に今更気付いた。
あー、本当。
遅っせえよな。
「ごめんな」
謝るくらいしかできない自分に、腹が立つ。
もう何をしても、遅い。
時間は取り戻せないし、彼女の傷に絆創膏だって貼ってあげられない。
そんな俺を見て、彼女は悲しそうな顔をした。
何にも言葉は発さない。
だけど、俺らと出会った時、どこかに見失ってしまった本音を隠すように表情を作ったんだ。
「帰ろう……ちゃんと、説明するから」
ごめん。ごめんな。
俺は、お前に、心の鍵を渡しちまったんだよな。
扉はもう準備できてるからって、勝手に鍵を作っちまったんだよな。
もう大丈夫だから、生贄の自分は忘れろって……
__何が、大丈夫なんだよ。
大丈夫なんて保証もない言葉、どこから出てきたんだよ。
なぁ。答えろよ、自分___。
「今更……遅い、よ」
……俺らが心にかけてしまった〝鍵〟
彼女は、それを無理やりこじ開けた。
小さな隙間から、雨と一緒に流れ出した本音
それは、俺らに対するものだった。
ただ利用していただけだ。
国の名誉と、俺らの名誉を守るために。
__でも、好きなんだよ。
__ でも、利用したんだろ?
表と裏が同じ気持ちになる事なんて、ない。
「恋奈?恋奈?!」
彼女の名を叫ぶ。
このまま彼女に死が訪れても、俺らは彼女に憎まれ、嫌われるだろう。
俺らは、彼女を嫌わないだろう。
本音も建前も、俺らが支配してしまっていた。
重荷と俺らを背負った彼女は、もう、壊れてしまったんだ。
「冷てえ…」
これ以上、冷たさまで彼女に背負って欲しくない俺は、ただ彼女を覆い被さるように抱きしめた。