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生贄のプリンセス【Fischer's】

第5章 今更


シルクside___

あの後、俺は一緒に探しに来ていたモトキ達と、恋奈を連れて城へ戻って来た。
恋奈はぐっすり眠っている。少し濡れた髪の毛を見ると、どうも胸が痛んだ。

当たり前だよな。
たった一人の姫を守れなかったんだ。
こいつにとっては、どうにもなってほしくねぇ事。

どうして、俺らは───姫を傷付けてしまったんだろう?

時も進まず、空気も浮かばず、世界も回らず。
その真実を知った彼女は、虚無の空間にいたいと願った。


「……なんで、こうなっちまったんだよ…」
四等分して背負ったはずの罪悪感が、重ぇ。
四等分しても同じって事かよ。

「俺らが出来た事、何かあったのかな…」
ダホは、いつもと違った声で言った。
出来た事なんて……本当は、ねぇかもしれねえな…

「恋奈の目が覚めたら、ちゃんと話そう」
モトキは、はっきりとした声で__でも、少し弱ったような声で言った。
ちゃんとって、何だよ。俺らにちゃんとなんて、ねぇかもしれねーのに。

「恋奈の言葉、聞かなきゃ……」
ぺけは、いつも以上に弱々しい声で言った。
聞けんのかよ、本当に……


俺らがしてきた事、言ってきた事、全部が無駄になった気分で。
全部が壊れた。
なんて、俺らよりも恋奈の方が失ったものも、壊れたものも多いはずなのにな。

恋奈のことを本当に想ってやれない俺らが、恋奈のそばにいるのは贅沢なことなのかもしれない。

じゃあ、この想いはどこに投げ捨てればいいんだよ───。


誰に聞くわけでもなく頭を抱えた、その時だった。

「……ん…」
彼女の澄んだ瞳が見える。

一番最初は謝る言葉だって決めたはずなのに、いざその姿を見ると何も言えなかった。
今の俺らじゃ、彼女に一生届かない気がした。

「…私、何でここに……?」
恋奈は辛そうな表情を見せながら、起き上がる。

「俺らが連れてきたんだよ。意識、失ってたみてえだったから」
俺は、恋奈から視線をずらす。
視界の端に、気力なく静かに悲しい笑顔を見せた恋奈が、映った。

「……もう大丈夫だよ。心配しないで。」

恋奈の声は、ゆっくりと雨の音に消されていく。
雨の音と彼女の声は、俺らの耳に大きくこだました。
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