第5章 今更
ようやく、扉の前まで来た。
まったく、このお城は廊下が長すぎるんだ。いつもメイドさんは大変そうだし、私達だって歩くのすら面倒に___
「はい、分かってます……あの条件のことは」
ふてぶてとしながら扉のドアノブに手をかけたとき、シルクの声が聞こえた。
あの条件って、何だろう。
たったその一つの疑問が、私をゆっくりとマイナスな感情に誘っていく。私の手はドアノブから遠ざかるように引っ込んでしまった。
盗み聞きしてはいけない。
でも、条件が何なのか、気になってしまう。
ゆっくりと耳を傾けた。
盗み聞きなんかじゃない、大丈夫だと、信じて。
「でも、もう、流石に秘密にはしておけないですよ……」
今度は、ンダホの声だった。
弱々しく、泣きそうな声が耳の奥を刺激する。
誰に秘密を抱えているかも分かっていないのに、心臓が激しく踊るように鼓動の音を大きく立てた。
__生きてる事くらい分かってるから、静かにしててよ……
緊迫した思いが、募っていく。
一体、誰のことを話しているんだろう?
私じゃ、ないよね___?
でも、次に聞こえたぺけの声は、
「でも、彼女は元々生贄で__裏切られたんですよ、ずっと信じていた人達に……」
私を〝お前だよ〟と突き放すような、そんなものだった。
決して強くはなかった声だ。でも、チクチクと、ホッチキスの針に留められる紙になった気分だった。
聞こえなかったフリをして__聞いていないフリをして、扉を開けたい。
でも、体は一向に動いてくれなかった。
「そんな彼女に、秘密事は気が引けます」
モトキは、そんな私に追い打ちをかけるように 言う。
秘密。
それはきっと、誰かを傷つけてしまう、そんなものしかないのだとこの時悟った。