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生贄のプリンセス【Fischer's】

第5章 今更


「久しぶりじゃな」

そう言って、ステッキをつきながら こちらへと歩いてくる王様は、何だか威圧感があった。
王様は彼らに笑いかけて、大きくなったと感心する表情を見せる。

シルクが言っていた通り、優しい人で良かった……と、無礼にもそう思う。

すると、王様は私の方に視線を向け、

「姫、じゃな?」
と、その言葉を噛み締めるように、ゆっくりと言った。
私は胸を張って、〝はい〟と返事をする。
王様は、その返事を聞いてから数秒後、まるで私のおじいちゃんのように

「良く来てくれたな」

と、優しい笑顔で言った。

どこか安心感のある柔らかい笑顔が、緊張を溶かす暖かい火になっていく。
きっと、王様は わざと安心させるように言ったんだ。
優しさが身に染みて、心に伝わって来た。

「こちらこそ、今日は来てくださってありがとうございます」

意外とすんなり言えた言葉に驚く彼らの顔が、視界の隅に映った。
王様の前でも動じないように見えた私に、相当びっくりしたのだろう。
シルクは慌てて〝ど、どうぞ、お上がりください〟と王様をリビングに案内しようとした。

しかし、王様は

「いや、待て」
と、ストップをかける。
前に進みかけた私達が、一斉に振り返った。

「少し、お前達とだけで話したい事がある。
姫、すまんが少し待っていてくれんじゃろうか?」
少し申し訳なさそうに言う、王様。
もちろん断るつもりもなく、分かりましたと返事をした。


彼らと王様は奥の部屋と向かっていく。
確か、あそこは王様専用の部屋だっただろうか。
あそこは大事な話をする場所で、メイドさんが 来客用にといつも紅茶を持っていっていた事を覚えている。

どうやら、今メイドさんは お部屋の掃除で総出らしい。
見渡しても、メイドさんはどこにもいなかった。

……紅茶でも持って行った方が、良いかな。

ただ待っているだけでも退屈だ。
ティーポットに入れていた紅茶をカップに注いで、五人分の紅茶をトレーに乗せた。

そうっと、溢れないように、持っていく。

何だか、紅茶を溢れないように持っていくドキドキ感と___会話が聞こえてしまうのではないか、という別のドキドキ感が混ざって、難しい感情だった。
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