第4章 いる
___シルクside
彼女が試着室に入った後、まるでさっきまでの騒がしさが嘘だったかのように静かになる。
多分だけど、考えている事は一緒なはずだ。
すると、予想通りに
「どうするの? シルク。あの事」
と、モトキが話しかけて来た。
視線は、俺に集中する。そんな見んなよ。
俺らが 重い何かを背負っているのは、全員身に染みるほど分かっている。それも、彼女に近付いていくたび__
距離が近くなっていくたび、重量が増えていく。
「……話さねえ方がいいんじゃねーの」
その重さが怖いと感じ取っているのは、言うまでもない。
今の俺らは、正反対の気持ちが交差して その気持ち達にジロジロと視線を向けられ、結局気持ちの威圧感に抗う事もできない弱者だ。
__中間の気持ちなんて、ねえよなあ。
毎度のことを嘆く俺らもまた、面倒な奴らだ。
本当は、彼女の望む結果にしてあげたい。
誰か一人を選ぶなんて事、してほしくない。
これは、こいつらに対する嫉妬なのか……それとも、彼女のためを思っての感情か。
今は、まだ……。
__カーテンレールの音が聞こえて、ふっと我に返った。
目の前には、
「……どう、かな」
と、照れ笑いする姫。
人魚のような鮮やかな色に包まれたワンピースを着て、最初に会ったときとは 別の感情を懐かせるような__そんな彼女は、別人に見えていた。
「綺麗だね」
モトキは、彼女にそう笑う。
彼女は〝ありがとう〟と、俺らには似合わないような笑顔で返事をした。
……彼女を好きになる度に、罪悪感は 何もかもを喰らい尽くして、自分の領土を作ってしまう。
俺らが何を優先して動けばいいかなんて、分かんねーよ。
だったら好きにならなければいいんじゃないか、とか。
だったら助けなければ良かったんじゃないか、とか。
だったら身分を捨てればいい、とか__
余計な考えしか浮かばない、とか。