第4章 いる
「じゃあ、これに着替えてきなよ。
せっかく写真撮るんだから」
イコール、まだ、私達との間にはガラスがあるという事。
例え、姫が着るみたいなワンピースを渡されても……
__ワンピース?
自分の目を疑った。
それは、人魚柄のワンピースだった。
所々にはパールがあって、私だと 美しいという言葉でしか表現できない、まさしく姫が着るようなもので……
って、私はもう、姫になったんだった。
はあ、と小さな溜息をつくと、
「恋奈?」
なんて、モトキが近付いてくる。
下から覗き込んでいるからか、必然的に上目遣いになっていた。
__これ以上 鼓動を速くさせて、どうするつもりなんだ。
この場にいると危険すぎると察した私は、〝着替えてくるね!〟だけ言ってその場を後にした。
……彼らは、不思議そうな顔をしていたけど。
玄関先で履いたスリッパで、メイドさんについていきながらも足早に着替え室へと向かう。
メイドさんの名札をちらりと見ると、〝イズカ〟と名前が書いてあった。
よくよく見れば、印象的なアノ顔だ。
目鼻立ちの揃った、大人びた女性。それでも、どこか愛らしげのある顔につい見とれてしまっていた。
「あの……私の顔に、何かついてたりしますか?」
ちょっと遠慮気味に聞かれて、我に返る。
また変な行動をしてしまっていた。
「いや、ううん、可愛いなって……」
何だか、恋愛に興味すらない女の子に初恋をした男子中学生みたいだ。
いや、可愛いを目の前にすれば、誰だってドギマギしてしまう。きっとそうだ。うん。
メイドさんは、ふふっと笑って
「面白い方ですね。私、メイドのイズカと申します」
少し頭を下げた。
「初めまして」
と、私が言うと〝初めまして、姫様〟と またお辞儀をしながら返してくれた。
可愛いなあ なんて思う反面、〝姫様〟という呼び方は、背中がぞわぞわとするくらいに 気持ちが悪くて……何だか、むず痒い。
そこで私は、メイドさんを〝イズカちゃん〟と呼ぶことに決めた。
少しでも環境に慣れていく為に、まずは自分に合った事から始めていこう。
そう思ったわけだ。
「こちらが着替え室です」
私は着替え室に入り、モトキから貰ったワンピースを眺める。
……これが似合わないわけがない、と 無理難題を押し付けられてるみたい。
今更気付いた私は、もう遅いと後悔するのだった。
