第2章 『頑是ない歌』
時計の針がてっぺんを少し越えた頃
泰子がうん、と伸びをして向かいの机を見ると、中也も丁度ひと段落ついた所だったようで、泰子は向かいに身を乗り出した。
「直ぐ出れる?」
「ああ。んで?その気になる店っていうのはどんな店なんだよ」
「その店のパソコンから私のパソコンへのアクセス記録が残っていてね」
「はあっ!?手前それで、データは無事なのかよ」
「嗚呼、盗られたよ」
大したことではないと言うように言い放つ泰子に中也は何かあるな、と感じつつも彼女の言葉を待った。
盗られただけならば朝会った際に言うだろうし、泰子がそう簡単にデータを盗られる訳がないということを中也はわかっていた。
「盗られた、と言うよりは盗らせた、と言うべきかな」
「ダミーか」
「ご名答。でも流石に腹が立ったから位置情報を知らせてくれるっていう一寸した細工をしておいた」
「それで炙り出されたのがその店か」
泰子は無言で頷く。
中也はさっさと行くぞと言いたげに外套を羽織り、帽子を被った。
泰子も中也の後を追い、アジトの駐車場で車に乗り込む。目的の店までは15分程度で着くだろう。
「そういえば何のデータにアクセスされたんだ?」
「薬さ。昔中也と太宰と倉庫ごと消したの覚えてる?」
「あぁ、4年くらい前だったか?何で今更」
「その時の薬なんだけど、当時は成分が解らなかったが最近になって解ってきたんだ」
今まで窓の外に向けられていた泰子の顔が中也へ向けられる。
中也は運転中であるため顔ごと向けることはしなかったが、横目で彼女を見る。
「依存性の強い薬で、服用量が一定量を越すと徐々に植物人間になる代物だ」
「なっ、植物人間!?」
「そう。何の為かは解らないけど」