第2章 『頑是ない歌』
ハッと目覚める。
そこは見慣れた天井。枕元の携帯を手に取るとまだ始業には早い時間だった。
かと言って二度寝をするにも頭が覚醒してしまっている。
「嫌な夢」
泰子はポツリと呟くとシャワーでも浴びようと思い、浴室へと向かった。
何故今更あの頃の夢を見たのだろう。
太宰がまだポートマフィアの幹部だった頃。
まだ三人で行動していた頃。
今、泰子の隣りには中也しかいなかった。
「手前にしては早いじゃねぇか」
「中也はもっと寝ないと大きくなれないわよ」
起きる時間が早ければ自ずと支度も早く済む。
早く書類整理を終わらせて飲みにでも行こうと決め、泰子はいつもより早く部屋を出たのだった。
目の前に積まれた書類を纏め、取引先の会社へデータ化したものを送る。いつもと変わらない業務だ。
「ねぇ中也。お昼は何食べるの?」
「あ?決めてねぇよ。ていうかまだ朝だぞ」
「気になるお店があるの」
「一人で行け」
「ねぇ中也貴方脳味噌まで小さいんじゃない?昼食のお誘いじゃないわよ」
「だったら最初からそう言え!青鯖女!!手前ほんっとに太宰に似てきたな!」
「あら心外」
そう言うと泰子は何食わぬ顔で業務に取り掛かる。中也も悪態をつきながら業務を始めた。
静かな部屋にキーボードを打つ音だけが響いていた。