第7章 『春日狂想』
「今回は太宰にも助けられただろうし、感謝はしているよ。だけど以前の様な感情は持てそうにない。組織を裏切った事に変わりはないし、私は組織の人間だから許す訳にもいかない」
「嗚呼、そうだな」
「だけどね中也。君は違う。君は何時でも隣りに居てくれた。小さいし、口は悪いし、小言が五月蝿いし、小さいけど...」
「おい待て。手前小さいって二回言ったなァ、死にてェのか」
「あれ、そうだった?まあいいや。兎に角、私が助けて欲しいと思った時、真っ先に思い浮かんだのは君の顔だったよ、中也」
以前二人で買い物に出掛けた際に見た泰子の笑顔よりも、ハッキリと解る。
嗚呼、此奴はこんな顔をして笑うのか──中也は暫く泰子を見つめていたが、急に羞恥心に襲われ、そのまま彼女が寝ているベッドへ顔を突っ伏した。
「このタイミングで寝た振りとは良い度胸じゃない」
「......違ェよ、莫迦野郎」
「嗚呼、照れてるのか」
「死ね」
寝室に二人の笑い声が響いていた。
「私が三日寝ていたという事は君は三日起きていたんだろう?少し寝るといいよ。まだ仕事は残っている」
「嗚呼」
「明日の夜、奴等を始末する」
スッと冷たくなる泰子の視線と声色。
先程迄とは違う、ポートマフィア幹部長谷川泰子としての表情だった。
中也もぐっと拳を握り締める。
「解った」
返事をすると中也は立ち上がり、泰子が寝ている自身のベッドへ潜り込んだ。
「──仕方が無いから一緒に寝てあげるよ」
「其れは此方の台詞だ」
泰子が目覚めた安心感からか、中也は軽口も程々に直ぐに寝息を立て始めた。
その寝顔を見つめながら、泰子ももう少し眠ろうと瞼を閉じた。