第5章 『 汚れっちまった悲しみに』
「出掛けて来る」
「何処にだ」
「太宰の所」
「はあっ!?」
翌日の執務室。
突然の泰子の発言に中也は椅子から立ち上がりながら叫んだ。
今日は太宰が現れないと思っていたら、泰子自ら会いに行くと言うのだ。
「何の為だ!?」
「この件を終わらせる為に」
「──彼奴は何か掴んでいるのか?」
「太宰が安吾に接触した」
その発言に中也は言葉を失った。
安吾が政府の人間で、情報収集を得意とする事は中也もよく知っていた。過去にポートマフィアに潜入していた事も。
その人物から何か聞き出せたのだとしたら。
中也と泰子はこの件が大きく動こうとしていると確信した。
「今日は。探偵社さん」
口元に笑みを携えながら泰子は探偵社の扉を開けた。
「ポートマフィア...!!」
眼鏡を掛けた長髪の男、国木田独歩が素早い動きで戦闘態勢をとる。
「君達と戦う心算は無いよ。太宰は何処?」
泰子から全く殺気や闘志を感じられない事に、国木田は戦闘態勢を解くと眼鏡に手をやる。
「知らん。何処かで自殺でも図っているんだろう」
「相変わらずね。莫迦らしい」
「ポートマフィアが何の用だ」
勝手に腰掛けていたソファで携帯を操作していた泰子だったが、国木田からの問いに指を止めると、チラリと視線だけを国木田へ向ける。
「なに、少し話をしに来ただけだよ」
「彼奴が追っている薬の件だな。ポートマフィアが動いている事は此方も把握している」
「探偵社が動いている訳ではないの?」
「嗚呼」
「そう...。兎に角今直ぐ太宰を呼び戻して」
泰子がそう言うと、国木田は携帯を操作し電話をかけ始める。
暫く応答は無い様だったが、やがて通じたのか国木田は無言で携帯を差し出した。