第5章 『 汚れっちまった悲しみに』
「泰子!!!」
バン、と乱暴に扉を開ける音と、聞き慣れた声。
声の主は勿論中也だ。仕事を放り出して来た相棒を連れ戻す為だったが、彼女と一緒にいる人物を見ると同時に眉間に皺を寄せる。
「手前...今更其奴に何の用だ」
「うわ、何か小さいのが怒ってる」
「五月蝿ェ。今直ぐぶっ殺してやる」
中也から唯ならぬ殺気を感じ、店内の客は息を飲んだ。
泰子はそんな中也に近付き、片手でネクタイを掴むと店の扉を開けた。
「騒いで御免なさい。お代は其処の胡散臭い男に請求しておいて頂戴」
「ん?」
状況を掴めていない太宰を置いて、泰子と中也は店を後にした。
ネクタイを掴まれた儘の中也はおい、と泰子を止めるが彼女は歩みを止めない。
「離せ!首締まってんだよ!」
「嗚呼、御免」
漸く解放された中也は襟元を正すと、泰子の肩を掴んだ。
「何で彼奴と居た?」
「知らない。太宰が急に現れた」
「目的は」
「太宰が言うと思う?」
思わねぇ、と呟きながら中也は泰子から手を離す。
何にせよこのタイミングで太宰が現れたという事は、太宰や探偵社も今回の件で動いているのかもしれない。
この件の発端には、太宰も少なからず関わっているのだから。