第5章 『 汚れっちまった悲しみに』
翌日、泰子は昼間から酒を煽っていた。
勿論中也には止められたが、その制止を振り切ったのだ。
何杯目かのグラスを空にした時、店の扉が開いた。
「やあ、泰子。久し振りだね」
懐かしいその声に、ゆっくりと声がした方を振り返った。
「太宰...」
「もう少し嬉しそうな顔はしてくれないのかい?感動の再会だと言うのに」
「何が感動だ」
「あの小さいのは元気かい?」
「嗚呼、相変わらず五月蝿いよ」
「それは残念だ」
泰子の隣りの席に腰掛けながら、太宰は笑う。
数年振りの再会だと言うのに、二人の間には感動も驚きの空気も無い。
「武装探偵社に居るんだって?」
「嗚呼、よく知っているね」
「広津さんが言ってたよ」
「はは、流石だなぁ」
「それで?何で今更私の前に現れた?」
泰子の問いに、太宰は笑顔を崩さず彼女を見据えた。
泰子も太宰を真っ直ぐ見つめる。
「君に会いたかった。其れだけだよ」
「あっそう」
はあ、とた溜め息を吐きながら泰子は太宰から視線を逸らす。
尋ねたところで太宰が本音を話すとは思っていなかった。
彼女にとっては、想定内の答えだった。