第3章 『湖上』
「ほら、合鍵」
「有難う。なんか今更だけどね」
「まぁな」
泰子は貰ったカードの合鍵をカードケースに仕舞うと、鞄から煙草を取り出す。
人が吸っているのを見ると、自分も吸いたくなるのが喫煙者の性。中也もポケットから煙草を取り出し、火を点けた。
「なんか疲れたねぇ」
「そうだな」
「お風呂借りてもいい?」
「おー。タオルの場所わかるか?」
「んー」
わかっているのかいないのか曖昧な返事を返し、泰子はバスルームへ向かった。
暫くするとシャワーを浴びる音が聞こえてくる。
中也は外套をクローゼットに仕舞い、泰子が脱いだままだった外套もハンガーに掛ける。
暫くぼーっとしていた中也だっが、いつの間にかシャワーの音が止んでいた。
「中也御免、何か着るもの貸して」
バスルームからタオルだけ巻いた状態で泰子が出て来る。
「手前は俺を信用し過ぎなんだよ」
「え?何か言った?」
舌打ち混じりに呟いた中也の言葉は泰子には届いていない。
中也は立ち上がるとそのまま泰子の手を引いた。
バランスを崩した彼女の体は、近くのソファへと倒れ込む。巻いただけだったタオルは殆ど肌蹴ていた。
「ちょ、中也...!」
「莫迦は手前だな」
「疲れてるって言っているでしょう」
泰子の抵抗などお構い無しに、中也は上へ覆い被さるようにソファへ乗る。
二人分の重さが加わったソファは深く沈み込む。
「手前のその表情、中々唆るな」
「莫迦じゃないの...っ!」
羞恥で顔を赤らめつつ、目で必死に訴えかけるが、それが却って中也の加虐心を擽った。
中也は片手で泰子の両腕を頭上で押さえ付けると、もう片方の手で辛うじて肌蹴ずにいたタオルをはらりと取り去った。
「っ...!」
「昼間の続き、だな」