第5章 新たな仲間
「建国伝記には語られておらぬ部分が沢山あるということしか今はわしの口からは言えぬ…」
老婆は頭を緩やかに左右にふった。乱れた長い白髪がばさばさと頭の動きに合わせて揺れる。
(この人は私たち以上に何かを知っている…。きっと建国の時のこと、魔物のこと、四獣のこと…)
この国の伝承を密かに守ってきた語り部(かたりべ)なのだろうか。
「…私はあなたを仲間に迎え入れたい。私たちが知らない多くのことをあなたはご存じのようだ。私はそれを知りたい。」
リョンヘは老婆に真剣な眼差しを注ぎながらそう言った。老婆はにやりと笑う。
「その見返りは何かあるのかい?」
「見返りな…」
今のリョンヘの元には報酬もなく、忠義のみで残っている兵士ばかりだ。食料もこの孟の民が納めているものである。みな出来るだけ節約しようとあがいている。
「…見返りは私が城に戻った際に、あなたの地位を保証するというのは…」
「いいや、わしはもう上から人を見下ろすことに飽きているんだ。そんなものはいらないよ。」
リョンヘが言い終える前に老婆は遮る。リョンヘは言葉に詰まってしまった。
「こういう条件はどうだい?わしに国がすっかり元どおりに、いや違うね。民も豊かに笑顔で暮らせるような国を見させてくれるという約束をしてくれるならわしは引き受けるね。」
「わかった。約束しよう」
リョンヘが即答する。そして椅子から立ちあがり、老婆に握手を求める。
老婆は立ちあがり、それに応えた。老婆とリョンヘの身長は大人と子供ぐらいで、老婆の腰が酷く曲がっていることがわかる。その状態であんなに速く歩いて部屋に入ってきていた老婆に、ハヨンは感服する。
(でもこの人、不思議なことが沢山ある…)
ハヨンはこの新しい仲間の不可解な点を知りたくてしょうがないのであった。