第17章 火蓋は切って落とされた
「ハヨン!ハヨン!しっかり!」
ムニルはそう叫んだつもりだったが、竜の姿では声にならない。金属を震わせるような音が、辺りに響く。ようやく彼女の姿が見えた。彼女の背には一本の矢が刺さり、その周囲は焦げていた。一人の歩兵が近くで倒れている。どうやらハヨンがかばったのか、目立った傷はない。ただ、この熱気と煙と操られていたことからの反動でか意識を失っていた。
(どうしよう…。この姿では運べないわね…。)
意識を失い、力が入っていないこの状況で、ムニルの背に跨るのは無理がある。それに、他の仲間がこの山から無事に撤退するまでは、龍の力で助けなければならない。しかし、変身するにはかなりの体力を消費する。仮にハヨンを人間の姿で仲間に引き渡したとしても、その後共に撤退しながら火を消せるのかどうか、ムニルは分からなかった。
(ああーっ、もう!やるしか他にないわね!)
安定した幸せな生活、と言うものをしたことがなかったムニルは、始めは王子に恩を売って、それなりの生活を手に入れようと思っていた。しかし、今ではハヨンやリョンヘを仲間として大事に思っているし、ソリャはどことなく兄弟のような感情を抱いている。それに孟の城で共に過ごした仲間たちのことも失いたくない。無茶だし、賭けに近いとわかっていても、両方を守りたいと動いている自分に、昔とは大違いだと笑いたくなる。
(ハヨン、もう少しの辛抱だから…!!)
ムニルはそう心の中で語りかけ、人の姿に戻ろうとする。しかしその時、まばゆい光が視界を遮った。ムニルは思わず目を閉じる。突風で炎が巻き上げられ、顔が熱かった。なんとか目を開けると、目の前で倒れていたハヨンの姿がない。焦って辺りを見渡していると、ばさばさと羽音が聞こえる。つられて頭上を見上げ、目にしたものにムニルの心の臓は早鐘のように激しく打つのだった。