第15章 駆け引き
信頼されることは良いことだ。しかし、今を手一杯で必死に手だてを探しているリョンヘには、かなりの負担である。リョンヘは今、反逆者を討ち、城を取り返そうとしている。そこに、人々からの信頼と言う重荷ものし掛かるのだから。
「あぁ…。わかっている。何としてもお前達を守り抜かねばな。お前達には国に歯向かわせるような形にしてまで守ってもらっているのだから。」
ハヨンはリョンヘの、王子としての立場の重さを改めて感じていた。群長に改めて礼を言うその姿に、にこやかな笑顔に、どれだけの不安が隠されているのか、ハヨンには計り知れなかった。
「では私たちは戦の備えに向けて、帰らせてもらう。何としてもお前達を守り抜かねばなならないからな」
警備についての意見を出し合ったあと、リョンヘはそう言って席を立った。ハヨンとセチャンも群長に会釈してその場を去る。
「セチャン、先程群長が言っていた義勇軍に志願した民達はどれ程いるんだ。」
リョンヘは隣を歩くセチャンにそう声をかける。群長が「私達も守られるばかりではなく、力になりたいと思いまして…」と今回の戦に自ら出兵したいと望んだ男達の血判書を出してきたのだ。武士がやるように自身の血で押したその血判書は、彼らの団結力を意味しているようにも感じた。
「はっ…。ざっと見ると五、六百人はいるかと…。」
書物のように綴じられた血判書をぺらぺらとめくりながらそうセチャンが答えた。ふーっとリョンヘがため息のように息を吐く。
「…私としては義勇軍をやめて欲しいと思うのだが…」
「何をおっしゃいます!」
セチャンが噛みつきそうな勢いで抗議の声をあげる。
「リョンヘ様が犠牲を厭う気持ちは私もよくわかります。しかし、こうして自ら志願してくれたもの達は、それなりに覚悟はしてあるのだと私は思います。これは彼らの意思を愚弄しているのと代わらないのではありませんか?」
セチャンが先程よりは少し声を抑えてそう言う。しかし、表情からは憤りを感じられた。