第3章 逃亡
共に逃げようとその事ばかり考えていたからか、ハヨンは腕の矢傷のことをすっかり忘れていた。
こうして今、城から逃げ出し、当分追っ手が来ないとわかっていると、どうしても違うことを考え出してしまう。
(痛いけれど…ここで抜いても出血を酷くするだけだ。でもいつまでも抜かないままでいるのも体に障る。)
そして腕も異変を訴えて、ハヨンは徐々に自分の体力が無くなっていることもひしひしと感じていた。
「ハヨン、その矢傷、大丈夫なのか」
リョンヘは息の荒くなったハヨンに気づいてそう尋ねる。山道は険しい。ますます体力が消耗するであろうし、傷による熱等も心配だった。
「リョンヘ様は私をお気になさらず、ご自分の身を守ることをお考えください。私は少々疲れていますが、もうすぐ元気になりましょう」
そう言って無理に笑みを浮かべるハヨンの姿は、リョンヘにはとても痛ましく見えた。
そして相変わらず己のことよりも他人ばかり大切にしたがることにも腹が立った。
「そんな状態のままで元気になれる者がおるか!私が背負うなりするからせめて休め!」
「リョンヘ様の足手まといになっては追っ手のいいようになってしまいます。それならば少しだけ私はここで休みますので、リョンヘ様たちはお先に…」
ハヨンは異例の出世をしたものの、まだ新人の兵士だ。まだ王都の辺しか詳しくない。ここで別れれば孟までの道もあまりわからないだろう。山道に迷う可能性もあるし、ここには夜には獣がうろつく。今の傷では一人でここを歩くのは困難だ。
「馬鹿が!」
リョンヘが怒鳴る。その声に先頭を歩いていたセチャンが足を止めた。みな進むのを止め、二人の様子を見守る。