第11章 起点
「そうねぇ…。私も最初はただの言い伝えだと思ってたわよ。でもね、自分が普通とは違うことを自覚してから龍の姿に変化できるようになった…。流石に信じない訳にはいかないでしょう?あなたに私の変化した姿をみせれば手っ取り早いんでしょうけど、ここで変化してもねぇ…」
ちらりとムニルはリョンヘの方へと目配せする。リョンへはもちろん手を振って駄目だという合図を送る。こんな森の中で突然姿を変えたら、周辺の木々が一斉に倒れるに違いない。その事で辺りに音が聞こえるだろうし、昼間に起こした騒動から、見つかってしまってはまずいのだ。
「まぁまぁ、色々あったんだし、急に情報詰め込んでも混乱するだけよ。この事はまたおいおい話しましょう。」
そう白虎の肩に手をおき、ムニルはあやすような声で告げた。白虎は黙ったまま首肯く。
(なんだろう…。言葉遣いは荒いけど、人付きあいが長い間なかったからかな…。素直な一面がある…)
ハヨンはそう考えながら白虎を見つめていた。
「そうだ、あんた名前は?」
リョンへが忘れていた、と言いながら尋ねた。確かに白虎、と呼ぶのも何だか変だ。
「…ソリャ。」
と静かに答える白虎。ハヨンが追いかけているときは達者な口をきいていたが、もしかすると本当はこちらの方が素の白虎に近いのかもしれない。
(ソリャは人と関わるのを嫌がっていたし、追いかけられることは彼にとって戦うことと一緒だもの…)
町の人に目をつけられては命からがら逃げ出す。しかし、自分はどこに行けばいいのかわからず、相変わらずそこに居座り続ける。それが例え、針のむしろのような環境であってもだ。毎日逃げ続けて生きていた彼は今、何を思っているのだろう。
ここからまた、ソリャの新たな生活の始まりだ。
(彼に力を貸してもらおうと思っていた。でも、私達は彼の意思に反して彼の人生を大きく変えてしまった…。)
ハヨンはソリャが仲間になって良かったと思ってもらえるように、頑張りたいと心に誓うのだった。