第10章 形単影隻
「そしてもう一つ原因があると思っている…。それはわしだ。わしは彼がここを去ってから一度だけ偶然出くわしたことがある。」
老人は手をぎゅっと握りしめた。その手は震えており、悔いるような表情を浮かべている。
「その時、わしは人間とは思えない彼の姿に、思わず怯んでしまった。あの子は訳もなく人を傷つけるような子ではない。それは分かっていたのに…。そして今も彼と顔を合わせて平静でいられる自信がない。」
そして老人は自身に嘲笑うかのような、なんとも言えない笑みを浮かべる。
「彼を育てていたわしでさえ、このような態度をとっているなんて、呆れてしまう。彼には本当に頼る場所が無くなってしまった。本当は私が引き取ってどこか他の町に行くことも出来ただろうに…」
ハヨン達は、彼にどのような言葉をかければよいのかわからなかった。老人はこのことで何度も自分を責めただろう。その上に自分達がまた非難をするのは違うと思うし、慰めても老人の気は晴れないことは見てわかる。
「だから、彼のことを迎えに来たお前さん達に、頼みがあるんじゃ…。決してわしのように、あの子を見捨てないで欲しい。ただのわしの自己満足と思われても仕方がない。でもな、わしはあの子がどこかで幸せに暮らしてくれることほど、願っていることはない…」
老人のすがるような目を見て、リョンヘが頷く。
「私は彼を仲間にしたいと思っている。それは彼自身が決めることだが、もし入ってもらったあかつきには、私は彼を大事な仲間として、友として共に行きたいと思っている。」
リョンヘの声は燐と静かな部屋の中に響いた。老人はありがとう、と呟きリョンヘの手を握る。その目は潤んで見えた。
(白虎は何度も居場所を失った。そんな状況でも、私たちを信じて、仲間に入ってくれることはないのだろうか…)
ハヨンはあの追いかけたときの彼の後ろ姿を思い出す。それは人全てを拒絶している心そのものにも思えた。