第10章 形単影隻
白虎ははっと目を覚ました。そして、自分は今、ある空き家の床に寝ていたことを思い出す。だんだん秋めいてきた風が、部屋の中にすきま風として入ってきて、少しだけ身を震わせた。
悪夢のせいか背中に汗をびっしょりかいていて、余計に寒く感じた。
「良かった…」
白虎はほっと息をついた。先程までのことも十分とらうまだが、これから先に起こったことで、自分の犯した罪への意識に何度もさいなまれていたからだ。
空き家の外に出てみると、戸口に食料が置いてあった。いつからか、白虎の寝泊まりしている所には誰かが食料を置いていくようになったのだ。
しかし、これは誰かの優しさではないと白虎は知っていた。誰かが白虎に食事を与えれば、その町では暴れないと噂していたのを聞いたことがあるからだ。
(…別に襲おうなんて思ってねぇけどな…)
白虎は食料の包みを取り上げた。そして空き家の中で一人で食事をする。先程孤児院の夢をみたからか、久しぶりに一人での食事を寂しく感じた。
(でも俺は一生一人だ。誰も俺に寄り付かねぇし、その方が身のためだ。こんな見た目をしていたら、どこに行っても白い目で見られる…。俺は一人でいる方がいい。今日の昼間に会った女も、この町で少し過ごせばわかるはずだ。)
白虎は食料の包みがいつもより重たい気がした。開けてみると火打ち石が入っている。
最近の夜は冷え込む。薪がないと使えないが、火打ち石があるのは助かった。
(…。誰か俺が寒いかと気にかける者でもいるのだろうか…。)
白虎はその考えを慌てて消し去った。こうやって気まぐれな優しさに嬉しくなっていたときほど、誰かに石を投げられたり、罵られたりすることが多いのだ。
(誰も信じてはいけない…。信じた方が辛くなる。)
白虎はそう考え、火打ち石を包みにしまい直した。