第9章 Episode 8
「あー、なんか無駄に緊張する」
どこか変じゃないかな、とかそんなことを気にするだけの乙女心が私にもまだ残っていたことに驚く。
時間に遅れる訳にもいかないので、鏡の前でもう一度だけチェックをして家を出た。
「天は近くまで来たら連絡してって言ってたけど、場所はわかるし迎えに来てもらうのも悪いよなぁ」
「さくらさんならそう言うと思って、迎えに来ました」
「っ!?」
駅に着くと背後から突然声をかけられ、声にならない声が出る。
後ろを振り返ると、そこには軽く変装した天が立っていた。
「心臓に悪い」
「すみません。さ、早く行きましょう」
天の少し後ろをついて行き、目的地である場所に向かった。
自動ドアを潜れば、とても広いエントランス。
「広いねぇ」
「小鳥遊事務所はいかにもな事務所って感じですしね」
私たちが到着したのは、天たちTRIGGERが所属する八乙女事務所。
ここならファンからは見られないし、他のタレントが見たところで、打ち合わせか取材だと思われる。
部外者である私が入ってもいいものかと思ったが、天が大丈夫だと言うのだから大丈夫なのだろう。
「併設されているカフェがあるので、そこでもいいですか?」
「カフェまであるんだ!大丈夫だよ」
カフェがあるという4階まで行くためエレベーターに乗り込む時、さり気なくエスコートしてくれる天は、どこかの王子様のようだった。