第8章 思わぬ出来事
「俺のいつもの髪型は…どう思いますか」
しばらく続いた沈黙を打ち破ったのは木手くんの方だった。
言われた言葉にいつもの彼の姿を思い浮かべる。
「いつもの髪型もピシッとしてて好きだよ。木手くんらしくて。格好いいよね」
ピタリ、と木手くんが動きを止め、しばらく固まった後、また何事もなかったように動き出した。
「俺らしい、ですか」
「うん。いつもしっかりしてる木手くんのイメージにピッタリだと思うよ」
「あなたはいつもうっかりしていますね。髪だって、ほら、適当にくくっているだけだ」
木手くんの手が伸びてきて、まとめきれずにこぼれてしまった髪の束に触れる。
「だから、隙ができるんだ」
ぐっと木手くんの目に力が入り、まなざしに鋭さが加わる。
瞳の奥に今まで見たことない木手くんが見えて、不安を覚える。
「…身だしなみの乱れは精神的な隙に繋がりますよ」
すぐに彼の目の力は緩められたけれど、その余韻はいまだ私の目に焼き付いて離れなかった。
小屋の外からまた雨の降る音が聞こえ始めた。