第8章 思わぬ出来事
木手くんとの浜辺でのやり取りが頭の中をぐるぐると回り続け、離れない。
以前から時々感じていた胸の痛みの正体がはっきりとしてしまった。
私は木手くんのことを好きになっている――――。
年の離れた、けれど大人びていて私より大人みたいな、不思議な彼のことを。
顔が火照ってばかりで仕方ない。
無理矢理その火照りを静めようと、頭から水を豪快に被った。
「そのままだと風邪をひきます、ちゃんと拭きなさいよ」
後ろからふいに声をかけられ、ビクッとしてしまう。
木手くんが私の行動に呆れたように首にかけていたタオルを私の頭にかけてきた。
わしわしと頭を拭かれ、まるで子供のように彼に世話を焼かれているようだった。
力強い木手くんの手が触れた箇所からどんどん熱を帯びていく。
「じ、自分でやるからいいよっ」
思わず彼の手を払いのけて彼のタオルでがしがしと頭を拭く。
私に払いのけられた彼の手は行き場をなくしたようにしばらく宙をさまよっていた。
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朝食の後片づけを終えて、何か手伝えそうなことはないかとあたりをウロウロして回る。
浜辺でどこかで見たことのある動作をしている木手くんが目に入って、思わず彼に近づいて行ってしまった。
「…如月さん、何か用でも?」
黙ったまま近づいてきて自分をじっと見つめていた私が気になったのか、木手くんが動きを止めて私を見やった。
邪魔をするつもりはなかったのだが、彼の流れるような動作に見とれてしまっていた。
「ああ、ごめんね邪魔して。見慣れた動きだったから、つい」
「見慣れた?」
「うん、こういう感じでしょ?」
言って以前少しだけ日吉くんに教えてもらった古武術の基本動作を木手くんの前で披露する。
彼は少し目を見開いて、顎に手を添えて私の動きを観察している。
「どこで教わったのですか?」
「日吉くんにちょっとだけ教えてもらったことがあるの」
木手くんは私の言葉にほんの少し首をひねり、ああ、と納得したような顔をした。
「日吉…氷帝の彼ね。…ふむ、しかしここはもっとこうした方がいい…」
言うなり木手くんは私の後ろにさっと回って、ピタリと体を密着させて動きの指導を始めた。
触れ合う肌から互いの体温が伝わって、私の脈は一気に速くなった。
恥ずかしさと緊張から体はこわばってそのまま固まってしまう。