第6章 距離
「木手くんは、何か怪しいと思ってるみたい」
「よりにもよってあいつか…」
跡部くんは頭を抱えて深いため息をついた。
彼がいつも見せる不遜な表情は鳴りを潜め、ギュッと寄せられた細い眉に彼の苦渋の色が浮かんでいた。
「美鈴、あいつらのことは頼んだ。何かあったらすぐに俺に連絡してくれ」
「分かった」
これで私も跡部くんの片棒を担ぐことになる。
純粋に比嘉中の子達を心配する気持ちは、今ももちろんある。
木手くんに対して嘘偽りない姿勢で向かい合ってあげたかった──、しかしそれも今となっては難しい。
ここまで大がかりな計画をそうおいそれとネタばらしするわけにはいかない事は、考えなくても分かる。
この時から私は、彼らに嘘をつき続けていく事になった。