第8章 声を聴かせて〜NJ〜 3
それから…
ニノは、俺と目を合わせてくれなくなった。
仕事で連絡をすれば返事をくれるし、話もしてくれるけど…
プライベートは全て、あの営業の笑顔で、シャットアウトされた。
「ごめん、J。今日は攻略したいゲームがあるから。また誘って?」
「じゃあ…いつならいい?」
「今のゲームが、攻略できるまでかなぁ…んふ、2年ぐらい?」
そう言って笑って、ヒラヒラと俺に手を振って楽屋を出て行こうとするニノの背中は、一回り小さくなった様に思える。
「ニノ、待って、ったら」
それでも追い縋ろうとした俺に、ニノが聞こえる様にため息を吐いて振り返った。
「何?」
「あの……頼むから…話しを、させてよ」
「じゃあ、どうぞ」
「いや…だから、ここじゃなくて…」
他のメンバーも帰り支度をしている楽屋で話せる様な内容でもないし…
きっとそれはニノだって分かっているはず。
「だから、俺は今は忙しいって言ってるでしょ。翔さんが聞いてくれないの?ねぇ、翔さんそんなに忙しいの?」
「いや、俺は別にいつでも聞いてやるぞ、潤」
「だってさ。じゃあ、俺は帰るから。皆、お先〜」
営業用の笑顔を残して、今度こそ楽屋を出て行ったニノを、俺はもう止める事も出来なかった。
「で、まつじゅん、諦めんの?」
「…関係ないでしょ、大野さんには」
「んーまぁ、そうだな」
「諦めるなら戻ってこいよ、潤」
何を考えての問いか分からない大野さんの問いが、相変わらずの気軽さで言う翔君の言葉が、折れそうな俺の心を押しとどめる。
「これは…俺とニノの問題だから…別に、平気だし」
「それが平気って顔かよ。無理せず俺に甘えろよ?」
入口の前に立ち尽くしていた俺の頭を背後からポンポンと優しく叩く翔君の手。
「だから、いいって」
それでも…
その手は、俺がずっと好きだった手で…グッと溢れそうになったものを必死で飲み込む。
「なぁ…俺も反省したし、今度は大切にするから、さ…戻ってこい、って」
「いいんじゃねーか、まつじゅん。お前だって翔くんが好きだったんだし、心入れ替えるって言ってんだから、信じてやればいいじゃん。その代わり…カズは俺が貰ってやるから」
流されそうになった心が、大野さんの言葉に反応して引き戻される。