第6章 I miss you〜SJ〜 3
病院は終わって家まで送り届けて、櫻井さんが平気って言うから帰ったけど、医者からも熱が上がるって言われたし、寝ているだろうから連絡を入れるなら明日にした方がいい
って言うマネージャーの言葉をおざなりに聞いて、翔君の家へと向かう。
この間は、翔君が俺の家に入ってたんだし…
俺も、許されるでしょ。
しかも、寝てるとはいえ、家主は家にいるわけだし。
そんな風に自分に言い聞かせつつ貰った鍵をドアに差し込んだ瞬間、不安に襲われた。
もし…
この鍵が合わなかったら、どうしよう。
回せなかったら、鍵が開かなかったら。
カチッと解除音がした時には心底ホッとして…そして…
翔君も…こんな風に不安に思いながら、鍵を回したのかな?
どんな気持ちで俺の家に来たかは分からないけど…
一度は終わった俺たち。
互いに鍵を返していなかったから…もし、この想いが変わっていた場合…この鍵が合わない可能性だって、ある。
新しい誰かのために、新しいものへと取り替えられている可能性だって、あるから。
そっとドアを開けて…玄関の靴のチェックもして…
真っ赤なハイヒールなんてあった日には、そのまま静かに鍵を閉めて帰らないといけないし。
「お邪魔…します」
小さな声でそう呟いて、あの頃と変わらない部屋の中へと足を踏み入れた。
いや…
あの頃と変わらない、って事は、ない。
変わってないけど…とんでもない汚さで。
そう…翔君はとにかく片付けが苦手だったし…翔君の部屋、こうだった。
付き合っていた頃は、遊びに来た時に俺がちょこちょこ片付けていたからね。
でも…
そんな他の誰かの手が入った気配のない部屋も嬉しくて、その程度の事で熱いものが込み上げてくる。
あの日
「しょーくんなんて、もういらない!」
って叫んでこの部屋を飛び出したのは…俺なのに。
ガタン
ベッドルームで大きな音がして、慌ててそっちに向かったら…
ベッドから半分落ちそうになっている翔君と、床に転がるペットボトル。
それを拾い上げて、ベッドへと近付く。
「しょーくん…大丈夫?」
「ま、つじゅ…ゴホゴホッ」
熱で潤んだ目で俺を見上げて名前を呼ぼうとしたその声は酷く掠れ、全て言えないままに咳き込んだ。