第3章 *絶対零度*
§ 轟side §
「親も心配してただろ」
「う…ん……それなりには…」
親の話をすると月城は顔を俯かせる。
(言っちゃいけねぇこと言ったか…?)
「悪りぃ。聞いちゃまずかったか?」
「あっ…ううん!全然大丈夫。轟くんのご両親も心配してたんじゃない?」
直ぐいつも通りの表情に戻る月城に少し安心した。いつも通りって言っても相変わらずの無表情だけどな。
「俺は…俺の父親はプロヒーローのエンデヴァーって奴だ。俺の心配なんてしねぇ」
実際昨日は家に帰っても姉さんしか家にいなかった。
「そうなんだ……」
月城も何か察したらしく、それ以上は何も聞かないでくれた。
「そろそろ帰るか」
「そうだね」
時刻は六時を回り、この時間でももう薄暗くなっている時期だ。
「じゃあお会計してくるね」
そう言って立ち上がろうとする月城の腕をテーブル越しに掴んで動きを止める。
「何しようとしてんだ…?」
「何って…お会計だけど…」
(コイツ、本気で自分が払うつもりなのか)
「良い。俺が払う」
「でも元々誘ったのは私だし昨日のお礼も兼ねてだから…」
「俺はお礼されに来たわけじゃねぇ。お前は黙ってその財布を鞄に片付けろ」
「でも————————「いいから」
「…………本当に大丈夫?」
「ああ。これでもヒーロー志望だ。女に金払わせるヒーローがどこにいる」
「ありがとう……今度必ずお返しします…」
その日は「帰り道なら大丈夫だよ、多分…」という月城を無理やり家まで送ってから俺も家に帰った。
「家まで送ってもらって…本当にありがとう」
「大したことじゃない」
「うん…じゃあ…また」
「今度は俺から誘う」
さりげなく次の約束をすると、月城は「待ってる」と言って笑ってくれた。俺の顔からも自然と笑みがこぼれる。
あったばかりなのにこんなにも気になる。
次の約束はいつにしようと考えている。
笑顔を見ると俺もつられて笑っちまう。
ああ。分かった。
俺は、月城が好きなんだな。
どうしようもなく。