第14章 *自尊心と自嘲*
§ ユイside §
何も…聞こえない。
何処にいるの?焦凍
ふわふわとした感触が身体を包み込んで、もう楽になっていいよと私に語りかける。
確かに此処には私の将来を決めつけてくるお父さんもいない。
私の劣等感も無い
責任なんて無い
何も感じずにただ居ればいい…それだけの話。
だけど待って……?
何も…何も無いじゃない。
暗闇が続くだけ
景色も色も無い。
何も聞こえない。
音が無い。
感情が無い
ただふわふわしてるだけ。
私を縛るものは何も無いはずなのに嬉しくない…悲しくもない。
それに……
焦凍が、居ない
それはダメだ。
そこに辛い事があるとしても私は現実に戻らなきゃいけないから。
そこに焦凍が居ないならここにいる理由も無いのだから。
そうだよ、ここには私の存在理由すら無いから。
「ここに居た方が楽だよ?何も考えなくていい」
姿無き声が私を呼び止める。
「ごめんね、私はそれでも戻らなきゃ」
「そっか。君なはなんだかんだ言って現実が好きなんじゃないか」
「そうかな…そうなのかもね」
「じゃあそろそろサヨナラかな」
「どうやって戻るの?」
「戻りたいと強く願えばこの世界に色が見えるよ」
「ありがとう…ねぇ、最後に聞いていい?」
「何?」
「貴方は…誰?」
「もう1人の君。君が現実から目を背けたいという思いから出来たんだ」
「そっか」
なら、何処かでまた会えるかもね。
そう呟いて目を閉じる。戻りたいと強く願う。
目を瞑っていても分かるくらいの光が辺りに満ちる。
私が目を開ける直前…もう1人の私が言った。
「目を開けた時に辛い思いをしてるのはきっと焦凍だよ。責任感から無茶しちゃったみたい。次は君が焦凍を助けてあげて」
思い出したの。
私が意識を飛ばす寸前焦凍が私に向かっていった言葉。
「目が覚めたら、また二人で何処か行こうな」
そうだ。私は焦凍との約束を果たさないと…。
そして私は目を開ける。
目を開けた先には無機質な機械音と確かな色があった。