第14章 *自尊心と自嘲*
§ 上鳴電気side §
「何だ、上鳴」
呼び出されたっつうのに
俺の言いたいことなんて分かってる筈なのに
それでもこの男は涼しい顔を崩さない。
他の全てに知らないフリをしてんだろ。知ってんのに知らないフリをしてる。
「何だじゃねぇよ……お前何考えてんだ」
俺のキャラにそぐわない言葉が口から次々出てくる。
轟が嫌いなわけじゃねぇ…だけど今のお前の態度は嫌いだ。
胸ぐらを掴んで引き寄せると、冷静沈着な瞳が少しだけ見開かれた。
何だ。
俺がここまですると思わなかったか?
いつまでもヘラヘラしてると思ったか?
この時ばかりはそのキャラは勝手にボロボロと崩れて行く。
「警察が動いてる中でお前が助けに行くんだよ?!どれだけ危険か分かってんだろ?!」
「お前に関係ない事じゃねえが、俺が行くか行かないかは俺の問題だ」
違ぇよ
俺に関係あるかないかはさほど重要じゃない。
俺がお前だけを呼び出してる理由がまだ分かんねぇか。
俺じゃなくて
「ユイちゃんはどうなるんだよ」
お前が行けばその間ユイちゃんが1人になる。ユイちゃんが起きた時に轟が居ない…その可能性に轟は気付いてる筈だ。
「なんで……なんで自分からユイちゃんを1人にすんだよ!」
「……っ」
「お前彼氏なんだろ。彼女がこんなになってんのに隣に居てあげねぇのかよ!」
怒りを通り越した感情は何処へも行けずにさ迷う。
「俺はユイちゃんが好きだよ。ユイちゃんがお前を本気で信頼してるのも分かってる。だけどよ…今のお前にユイちゃんを幸せに出来んのか?」
爆豪が心配なのも責任感を感じてんのも分かるけど命を懸けて来るなと言われてる場所に行って彼女を置いていく。
それは絶対に違うだろ。
「ふざけんなよ…」
ほら。こんなに言ったって言い訳も反論もしない。
ユイちゃんを1人にするのを分かってて行こうとしてる。
「俺は…俺なら絶対ユイちゃんを1人にしない。警察が動いてんなら尚更行く必要も無い」
言いたい事だけを言って手を離すと、その手がジンジンと傷む。
そして、その場を素早く去った俺には轟の苦痛に満ちた声なんて聞こえもしなかった。
「だったらどうすりゃいんだよ……」