第14章 *自尊心と自嘲*
§ 轟side §
「ユイ…」
愛しい彼女は無数の管に繋がれて
長い睫毛を伏せたまま眠る。
こんな事、思いたくない。
分かってる。だけどどうしても思っちまうんだ。
このまま目を覚まさないんじゃねぇか、と。
ユイの容体はまだ聞かされていない。
八百万によればユイは脳無と交戦、脳無の体を砕いたが驚くべき速さで再生された。
そこで急に脳無は撤退し始めたと言っていた。
「その後人を連れてこないといけないと言っていて…恐らく葉隠さんと耳郎さんの事でしょう。そこで私もついていけば良かったのですが意識が朦朧としていて気が回りませんでした。申し訳ございません」
葉隠と耳郎が意識を失っていたことを考えるとその前にも何らかのヴィランと交戦していた可能性もある。
毒ガスの中で交戦するなんざかなりの体力を持ってかれる。
どうりで個性が暴走するわけだ。
(俺が…もっと早くヴィランを片付けられていたら応援に行けたかもしんねぇ)
静かな廊下に聞こえるのはいくつかの機械音だけ。
その機械音がユイの命を繋いでいるような気がした。
爆豪も助けられない
ユイも助けられない
俺に何が出来る?
いつもクソ親父の個性を嫌がってばかりいた。
だが自分が強個性なのも事実で、左側を使いだしてからは以前よりも個性の使い勝手が良くなった。
俺は…その個性に頼りすぎてたんだよ。
個性のお陰で強い自分を何でも出来ると自惚れた。
自尊心だけがデカくなって…その結果がこのザマだ。
「ごめんな、ユイ」
答える事の無い彼女に謝ると、誰かの声が廊下に響く。
「貴方…もしかして……轟焦凍さん?」
名前を呼ばれ振り向くと、そこには若い女性が二人。
「初めまして。ユイ様の使用人をしております。メニーと申します」
「スウと申します」
丁寧に頭を下げる姿に、ユイが「お手伝いさんがね…」と嬉しそうに話している記憶が蘇る。