第14章 *自尊心と自嘲*
息切れをしながら辺りを見渡す男はユイちゃんを探してるんだろう。
アイツもヴィランと交戦したのか服は汚れ、所々に擦り傷がある。
「ユイは…!」
「轟、こっちだ」
相澤先生に促されてユイちゃんの元へ来た轟は焦りを滲ませた声で言った。
「今までで一番危ねぇ…上鳴、下がってろ」
「でもよ…」
俺がいても出来ることは無いと分かっていた。
でもユイちゃんの隣に居たい。こんなに苦しそうなのに放っておけない。
だけど、次の瞬間俺の体は勝手に二人から離れてしまった。
轟が喋った瞬間に、俺が何度呼んでも反応しなかったユイちゃんの口が微かに動く。
掠れた声で。力なく手を伸ばして。
俺と轟にだけ聞こえるような小さな声で…
「しょう…と……」
確かにそう言ったのだ。
見たくないと俺の体は少しだけ後ずさりをする。
それでもやっぱり気になって声が聞こえるような位置で立ち止まった。
男は彼女の手を握る。
ここにいるよと語り掛けるようにその名前を呼ぶ。
「ユイ、遅くなってごめんな」
名前を呼び合う二人は誰がどう見てもそういう関係。
「しょ…と……冷たい…痛い…」
途切れ途切れながらもユイちゃんはしっかっりと言葉を紡ぐ。
轟は当たり前のようにユイちゃんの体を抱きしめた。
「もう大丈夫だ。落ち着け。ゆっくり深呼吸しろ」
轟の声は初めて聞くくらい優しいもので、ユイちゃんの周りの空気が柔らかくなる。
「ちゃんと出来てる。大丈夫だ」
最後に轟が何かをボソッと呟き、やがて聞こえてきたのは小さな寝息。
ユイちゃんままだ多少苦しそうだが周りの冷気は消え去り、少しすると蒸し暑い空気へと戻った。