第14章 *自尊心と自嘲*
地獄だ。
仲間が傷だらけで帰って来る。
ピクリとも動かず、目を開けようとしない。
無事で良かったと笑顔で抱き合う者はいない。
決して無事なんかではないからだ。
勿論、俺がそんなことを言えるはずもない。
ただここでプロヒーローに守られていただけの俺に皆の体験した恐怖は分からない。
「まだ集まってない奴は誰だ。俺が探しに行く」
続々と集まって来る生徒の中で、まだ帰ってきていないのが数人。特にA組は約半数が戻って来ていない。
相澤先生が、ブラドキングにその場を任せて捜索しに行こうと声をあげる。
(クソっ…救助はまだかよ…)
返って来てる奴の中にも毒ガスにやられちまったのが何人もいる。
その場にいたマンダレイ達と俺達も傷の応急処置を手伝うが、ほぼ全員が怪我をしている状態では処置も追いつかない。
このまま待っていても埒が明かないと、相澤先生が森の中へ足を向けた時、急に空気が冷たくなった。
夏真っただ中で蒸し暑い空気の中に冷気が入り込んできたかのようだ。
(俺の感覚が可笑しいのか…?)
一瞬そう思ったがどうやらそうでもないらしく、他の連中もこれは何だと周りを見渡している。
「全員下がれ!」
相澤先生とマンダレイが生徒を背にして森の中を睨みつける。
「ここに来てヴィラン?撤退したはずだろ」
思わず声を発すると、すっかり暗くなった木々の影からジャリ…と砂を踏む音が耳に入って来た。
普段は気にしない音も、静まり返った所ではよく聞こえるものだ。
音はやがて影を引き連れて俺達の前に姿を現した。
人影が…3つ。
ゆっくり、ゆっくりとこちらに攻撃を仕掛けるわけでもなく近づいてくる。
そして影は木の間を抜け、月明かりがそれを照らした。
3つの人影の真ん中。
その足だけがこちらに向かって歩みを進める。
「ユイ…ちゃん…?」