第13章 *番外編 Trick yet Treat!*
「月城さん、ご無沙汰しております」
会場に入るやいなや満面の笑みで近寄ってくる男の人。
前にも会ったことのある人だ。確か私と息子の縁談がどうとか言ってた気がする。
「ユイさんも、お久しぶりです。相変わらずお綺麗ですね」
胡散臭い笑みでお決まりのセリフを述べる……このイベントが今日はずっと続くのだから今から疲れてしまう。
「お久しぶりです。お元気で何よりです」
慣れていない引きつった笑顔でこちらもお決まりのセリフで挨拶を済ませるとまた次の人、それが終わるとまた次。
お父さんだって家では絶対に見せない笑みを振りまいて……
(嘘ばっかりだから嫌いなんだよ。こんな所……)
こちら側には沢山の人が寄ってくるのにお父さんから誰かの元へ向かう事は無い。
本当に何が良くてお父さんに近寄ってくるのだろう。
「それでは、私はこれで失礼致します」
最後の人との挨拶が終わり、ようやく地獄が終わったと思ったらパーティーもお開きの時間。
休める時間など全然無く、直ぐにダンスパーティーへの準備へと移った。
(とりあえず会場から出るか……)
お父さんの背中を追うように歩き、ふと横を見ると少し離れたところで紅白の髪が揺れた。
(しょう……と…?)
見間違えることのないシルエット。
その隣には炎を纏った大柄の男性…No.2のプロヒーローが立っていた。
確かにこれだけ大きなパーティーなら、プロヒーローの息子である焦凍が参加していても可笑しくない。
エンデヴァー自体が異彩を放っている事もあり、焦凍もかなり目立っている。
(有名人だなぁ本当……)
これだけ目立っていれば私が焦凍を見つけるけることも不自然ではない。
むしろこの会場にいる人の大多数が目にしているだろう。
早く会場を去りたいと早めていた足を少しだけ止めると、ふと焦凍がこちらを振り向き、目が合った。
(……っ…)
こんなに沢山の人が焦凍を見ているのに、その中で私を見つけてくれたことに頬が熱くなる。
偶然かもしれないし私を見ていたわけではないのかもしれない。
だけど、私を見た時焦凍は微かに目を見開いた。
(これは多分合ってたよね……?)