第11章 *林間合宿*
「あの、本当に怒ってないので。顔に出すのが苦手なだけなので……」
「本当に……?」
自分のやったことでは無いのに少し涙目になっている拳藤さんにユイちゃんが小さく笑みを零す。
「本当です」
美少女の笑顔ってのは可愛いもんだが、ユイちゃんの様に初対面の人に向かって頻繁に笑いかける事がない子が笑った時の感動と言えばもう……
「良かったぁ〜……それにしても今!笑ったよね?!ね?!」
この人も同じなようだ。
束ねられた鮮やかなオレンジ色の髪が灰色がかった髪に近づき、緑色の瞳が蒼色の瞳を覗き込む。
その緑色の中に何が映っているのか俺には見れないが、多分同じようなものだろう。
「すっっごい可愛いんだけど貴方!名前は?私は拳藤一佳!」
そう。すっっごい可愛い子が映っていることだろう。
さっきとは別人のようにグイグイ迫ってくる彼女は、完全にユイちゃんと友達になる気満々だ。
「私は月城ユイです」
「月城さん!B組も皆いい人だから良ければ仲良くして?物間は…さっきの奴はいつも人の嫌味ばっかり言ってるから気にしないで聞き流して!」
はい、と呟いたユイちゃんに満足気に手を振ってから拳藤さんはB組の中へと戻って行った。
「拳藤さんも言ってたけどアイツはいつもA組に喧嘩ふっかけて来る奴だからあんまり気にすんなよ!」
出来るだけ辛気臭い雰囲気を出さないように明るく慰めの言葉をかけると、ユイちゃんは小さくありがとう。と呟いた。
「B組の人にも普通科の人にも…ちゃんと認めて貰えるように頑張るね」
「そうだな!明日からもまた頑張ろうぜ!」
少なからず傷付いているだろう。気にしているだろう。
だが、人に弱音を吐かないユイちゃんの強さにまた胸がきゅんと締まる。
(おっし!明日は多分夜に肝試しがある!それで今日の事を忘れさせつつユイちゃんと近づこう作戦だ!)
どこまでも前向きな上鳴電気は心の中でそう意気込んだ。