第11章 *林間合宿*
「轟くん……」
物間の腕を掴んだ手の主は轟。
涼しい表情を崩すことなく物間をみつめるが、その瞳からは何故か苛立ちが見える気がした。
気付くと、A組とB組の視線を一気に集めていた。
A組は自分のクラスメイトが罵倒されている状況を見過ごすわけにはいかないから。
B組もやはり転校生の存在は気になるようだ。
「何?君こんなキャラだったっけ?」
「別に。ただうるさかったから止めただけだ」
物間は普段見せないような苛立ちを見せる。
こんなハイスペック人間に自分のした事を止められたのが気に入らないのだろうか。
だが確かに物間の言う事も一理ある。
轟はこういう事に首を突っ込むタイプじゃなかったような気がする。
「轟くん、私は大丈夫だから」
ピリついた雰囲気の中でユイちゃんが轟をなだめにかかるが、轟はそれに答えない。
まさに一触即発だが、そんな時俺はこちらに向かって早足で歩いてくる1つの人影を見つけた。
そしてその人は物間の後ろに来るやいなや頭に強烈なゲンコツを1つ。
「痛った?!何すんだよけんど……「何じゃないわよ?!あんたこそまたA組に迷惑かけて!」
数十秒前まで静まり返っていた場にぎゃいぎゃいと2人が言い合いをする声が響き渡る。
物間に強烈な1発を食らわせたのはB組の拳藤さん。
「本当にごめんなさい!少し目を離した隙にまた物間が……」
いつもこんな感じで物間を引きずりながら代わりに謝ってくれるB組の姉貴的な存在……だと思う。
「いや…俺も悪かった」
轟もいつものように戻り、A組とB組も普段の騒がしさを取り戻した。
「あ〜あと貴方!転校生の子かな。多分物間に何か言われたでしょ?本当にごめんなさい!」
ユイちゃんの前に勢いよく2つの頭がばっ、と下げられる。
物間の方が拳藤さんより背が高いのだが、その頭は拳藤さんの手に押さえつけられ、拳藤さんより低い位置にあった。
「大丈夫です」
大丈夫、という言葉に拳藤さんは顔を青くして焦ったように次々とユイちゃんに喋りかける。
「あぁぁやっぱり怒ってる?怒るよね、そりゃあ……どうしよう…何か欲しいものとかない?!」
その態度からするにユイちゃんが怒っていると思ったらしい。