第9章 *Cultivate love*
§ ユイSide §
「お母さん!こっちだよ!」
「ユイは元気ね。お母さんは少し疲れちゃった」
遠い日の記憶。
久しぶりに来た公園の大きな芝生で走り回っている私。
それとは対照にお母さんはゆっくり歩いてくるだけだった。
前に来たときは小走りでついてきてくれたのにその時はもう走らなかった。
頭上には青空、足元には芝生の緑が一面に広がって、周りにいる親子たちも楽しそう。
鮮やかな色だけが私の目に映し出される。
その時の私には、はしゃぐ私を見て微笑む母も鮮やかな色の一部だった。
お母さんが亡くなる二か月前だった。
体がだんだん弱ってきているから走れなかったのかもしれない。もしかしたらあの微笑みには複雑な感情が入り混じっていたのかもしれない。
周りのお母さんは皆子供と一緒に遊んでいる。
自分の子だって遊びたがっている。
なのに一緒に遊んであげられない。
あの鮮やかな色の中、お母さんだけが実は白黒だったんじゃないか。私の一言一言がお母さんを傷つけてしまっていたのではないか。
疲れちゃった、と言って近くのベンチに腰を下ろす母。
「お母さん、大丈夫?ぐあいわるい?」
お手伝いさんがよくお母さんに言っている言葉を見よう見まねで言ったのを覚えている。
でも、私がお母さんの事を心配するといつもお母さんは同じことをした。
「大丈夫。何でもないよ」
「でも……」
「ユイが元気だとお母さんも元気になるよ」
そう言って頭を優しく撫でてくれた。