第9章 *Cultivate love*
§ 轟Side §
「着いたぞ」
「可愛い……」
感嘆の吐息を漏らすユイの前にそびえ立つ一棟の木造の家。
俺が小さい頃によくお母さんと来ていた家だ。
だからお母さんにとっても大切な家だと思う。それでもユイをこの家に入れることを快諾してくれたという事はユイの事を認めてくれたんだろう。
「中、入らねぇのか」
外観を眺めるだけで瞳をキラキラと瞬かせるユイの腰に手を回す。
ガチャ………
「失礼しまーす……」
無人の家に挨拶をしてから遠慮がちに家に入ったユイだったが、あるものを見つけると、それに向かって一直線に走っていった。
「焦凍!これ乗りたい」
「ハンモック…?ユイの好きにしろ」
「ありがとう」
柱に括り付けられてゆらゆら揺れるハンモックは俺のお気に入りでもあった場所で、よくここで昼寝をしていた。
少し大きめのサイズで作られており、あの頃よりも身長が伸びた俺でも体がすっぽり入るくらいだ。
「そういえばこのお家凄く綺麗だけど掃除が必要って言ってなかった?」
ハンモックから頭だけを乗り出して聞いてくるユイ。
「先に掃除しておいた」
「……そんなに無理しなくても来てから一緒に掃除すれば良かったのに」
「お前、好きな奴が家に来るって言ったら部屋掃除するだろ?」
「?うん、するけど……」
「それと同じだ」
的確な例えをしたつもりだったけれど、ユイは何か腑に落ちないようでハンモックの上で足をバタつかせている。
「何か…そうしてくれるのは凄く嬉しいけどそれって私が焦凍に頼りきってる感じがする」
「こういうのは男のやることだろ」
「そうかもしれないけど、私は楽しいことだけ一緒にやってめんどくさいことは焦凍にさせるのは嫌」
(別にやらされてる訳じゃねぇからめんどくさくは無いんだけどな)
純粋に俺を気遣ってくれているのは分かっている。
普通の女が喜ぶところを気にするのがユイだ。
でも怒っているわけでもない。
(ここで悪い…はちょっと違うか)
「じゃあこれからはお前にも頼むことにする」
「是非そうして下さい」
灰色がかった頭に手を伸ばすと、満足そうな答えが返ってきた。