第9章 *Cultivate love*
「もしもし、焦凍?」
受話器のマークをスライドさせて耳に手を当てると、なんだか電話越しでも緊張してしまった。
「今、家の近くまで来てる」
(先に言うってことは待ってて欲しいのかな?)
「分かった。じゃあ外で待ってるね」
「あぁ、悪いな」
「大丈夫だよ」
「スウさん!それじゃあ行ってきます!」
「駅まで送りましょうか?」
「うーん……近いし今回は大丈夫です。それに会う時はちゃんと紹介したいので」
「わかりました、何かあったら言ってくださいね。行ってらっしゃい」
「行ってきます……!」
外に出ると、そこには既に、前と同じようにシンプルな格好の焦凍が待っていた。
「…………もしかして電話した時には着いてたでしょ」
「そんな事ない」
「あるよ。だって焦凍もうすぐ着くって言ったでしょ?」
「今着いた」
「ここまで近くだったら焦凍は絶対意味なく電話なんてしないよ」
意地になって言い返すと、焦凍は無言で踵を返して1人で歩いて行ってしまう。
「お手伝いさんが出たら、ちゃんと挨拶出来ねぇからな」
「どういう事……?」
「インターホンを押してお前以外の奴が出たらまだちゃんと挨拶出来ねぇって言ってる」
(それって……ちょっと焦凍も緊張してる?)
2人で1週間も過ごすのだからスウさんとメニーさんに会えば挨拶をしないといけない。その心の準備がまだ出来ていないと言うことだろうか。
私は勝手にそう思う事にした。
「けど帰ってきた時にちゃんと挨拶はするから、それまでは待っててくれ」
「うん、待っててあげる」
「あ、あと……」
何か言おうとする焦凍に小走りで追いつき、顔を覗き込むとその顔は少し紅く染まっている気がした。
「どうしたの?」
腕を掴むと焦凍にそのままキスをされる。
人通りが少ない道だから良かったが、突然の行動にパッと腕を離してしまった。
「ワンピース、似合ってるな………………可愛い」
「…………」
それだけ言うと焦凍はまた1人で歩いて行ってしまう。