第3章 *絶対零度*
§ 轟side §
「疲れているのにごめんね、ありがとう」
「大丈夫です」
リカバリーガールの元へ行ったあと、駆けつけた警察に事件の話を逐一聞かれ、気づいた頃には空があかね色に染まっていた。
(それにしても、結局あの氷の個性を持ったヴィランはどこにいるんだ)
話を聞かれている間もずっと気になっていた疑問。
どうやら警察もこれについては全く知らないようで
(いい子ヅラしてヴィランについての情報を聞き出そうとした俺の努力は無駄だったってことか)
頭の中の疑問は消えないまま、保健室の引き戸を引いて部屋の中へと入る。
はぁ…とため息をつき顔を上げると、意識を取り戻した女がベッドの上からこちらを見つめていた。
白に少し灰色が混じった髪色にマリンブルーの瞳。
少女とは言ったが、よく見るとれっきとした年相応の女だ。
だが美人という例えも少し違う気がする。
言うなれば…
(美少女、か?)
今日初めて会った人間にそんなことを言うのは可笑しいのかもしれないが、まさにその言葉が適当だろう。
端正な顔立ちだが大人っぽいという訳でもなく、かと言ってあどけないわけでもない。真っ白な肌がより儚い印象を持たせている。
「起きたのか」
「あっ…はい。助けてくれて本当にありがとうございます。お名前は…?」
ありがとうございます、と丁寧にお辞儀をしているが表情が全く変わらない。その容姿も合わせてまるで人形のようだ。
「轟焦凍だ。それより────
ずっと気になっている疑問を投げかけようとした俺の声は遅れて戻ってきた警察の声にかき消される。
そして、そのまま事情聴取が始まった。
「まずは君の名前を教えて欲しい」
「月城ユイです」
個人情報以外の情報は俺も一緒に聞いていたが、俺が聞きたい情報は一つだけ。
「氷を操る個性を持つヴィランは見なかった?」
そう、それだ。俺が聞きたかったのは。