第9章 *Cultivate love*
「ユイ」
「……!」
少し強めに名前を呼ばれてハッとする。
「ごめんなさい、偉そうな事言って……!」
私の悪い癖だ。個性が暴走している時もそうだが、感傷的になると周りが見えなくなってしまう。
焦凍のお母さんは静かに涙を流していた。
「ごっ、ごめんなさ────「ありがとう」」
謝罪の言葉に感謝の言葉が重ねられる。
「初対面の方にここまで言われるなんて、思ってなかったわ」
「すいません……」
「あっ、誤解しないで?感謝してるの。少し前を向けた気がするわ」
涙を拭ったお母さんは焦凍へ向かって泣きながら笑った。
「いい人と出会えたのね、焦凍」
「……あぁ」
焦凍が少し頬を染めて恥ずかしそうに笑う。
「そろそろ暗くなるから、今日はもう帰って。また来るの待ってるわ」
「はい」
もう少し話していたかったけれど、確かに窓の外も暗くなって来ていたので、今日は帰ることにした。
「今日はありがとうございました」
「楽しかったわ。焦凍の事、宜しくね」
「…………はい…」
宜しくね、と言われたことが嬉しくてつい顔が緩んでしまう。
部屋を出る直前、焦凍が何かを思い出したように声を上げた。
「そう言えば……お母さん」
「何?焦凍」
「静岡にある家、夏休みに1週間だけ借りても良い?」
「あぁ、あの家ね。ずっと使ってないから掃除が必要だと思うけど……それでも良いなら全然使って」
「ありがとう」
(何の話だろう)
「悪い、ユイ。行こう」
「あ、うん……」
少し気にはなったけど、親子の会話に入り込むのもあまり良くないかなと思い、何も聞かなかった。
その日は焦凍に家まで送ってもらって、そこで解散した。