第9章 *Cultivate love*
「ユイはどれが良い?」
物思いにふけっていた私を焦凍の声が現実に引き戻す。
「私は…緑茶にしようかな」
「分かった」
席に戻り、私に緑茶を手渡した焦凍はぽつりぽつりと学校での事を話し始める。
最初は今日あった授業の内容。焦凍は所々私に問いかけるように話をしてくれて、私も焦凍のお母さんと会話をする事が出来た。
そして次の話題は緑谷くん。
「……体育祭で戦ったんだ」
体育祭の頃は私はまだ焦凍に出会っていなかったから、私も聞く立場に回って沢山話を聞いた。
焦凍は言った。「初めて全力で戦った」と。
その前の出来事は私には分からないけど、今の焦凍になる為に緑谷くんが何かしらの影響を与えたんじゃないかって、そんな気がした。
「ユイさんの御家族はどんな方?」
急に自分に話題が回され、戸惑ってしまう。
「あ…私は…」
「お母さん、ユイは──」
私を気にして焦凍が何か言おうとしてくれる。
でも私はそれを遮って、正直に答えた。
「母は、私が小さい頃に亡くなってしまいました」
「あっ…ごめんなさい、私……」
「いえ、大丈夫ですよ。とても優しい母でした。今でも大好きです」
「良かった……いいお母さんなのね。私は焦凍に母親らしい事をしてあげられなかったから尊敬するわ」
少し目を伏せて自傷気味に笑う焦凍のお母さん。
「そんな事……ないと思います」
「えっ?」
私は焦凍のお母さんに会うのは初対面だし、こんな事言える立場じゃないことくらい分かってた。
分かってたけど、口から言葉がすらすらと出てくる。
「焦凍くんの優しさはお母さんと一緒のものだと感じました。それに、母親らしい事が出来なかった、と悔やむのはそれだけ焦凍くんの事を愛してたって事だと思います」
「ユイ……」
少し涙目になる私の肩に焦凍の手が添えられる。
「焦凍くんからお母さんの事を憎むような言葉は聞いたことがありません。私は母がもういないから…それこそ親子らしいことはもう出来ない。でも貴方は今、母親らしい事してるじゃないですか」
「……っ…」
「あんまり自分を責めないで欲しいです。過去よりも今の方が大事だと、私は思います」