第9章 *Cultivate love*
§ ユイSide §
「ユイ」
焦凍が病室から出てきて私の手を引く。
「失礼致します……」
1歩、また1歩と病室に足を踏み入れ、ドアを閉めて振り返ると、そこに居たのは柔らかい笑顔をした女性。
(この人が……焦凍のお母さん…凄い綺麗な人…)
「お母さん、俺の彼女のユイだ」
焦凍の視線を受けて私も焦凍のお母さんに頭を下げて挨拶をする。
「初めまして。轟焦凍さんとお付き合いをさせて頂いております、月城ユイと申します」
心臓が他の人にも聞こえてしまいそうなくらいバクバク鳴っている。
緊張はしていたけど、言葉遣いは小さい頃に嫌という程習ったのでそれのお陰でちゃんと挨拶は出来た。
「そう…貴方が焦凍の……」
ゆっくりと顔を上げると、こちらを真っすぐ見つめる綺麗な黒い瞳と目が合った。
「ご丁寧にありがとう、焦凍の母です。ご挨拶がこんな場所でごめんなさい」
「いえ、そんな……」
纏っている柔らかい雰囲気は焦凍の中にもある雰囲気。
本当に焦凍のお母さんなんだと実感した。
「2人ともどうぞ座って?ユイさんからも焦凍の事、色々聞きたいわ。勿論、貴方の事もね」
「はい…!」
焦凍が持ってきてくれたパイプ椅子に腰を下ろして、何か話そうとするものの共通の話題は焦凍だけ。
しかも相手母親なのだから私よりもずっと焦凍の事を知っているだろう。
何を話そうかと悩んでいる間の沈黙を破ったのは焦凍のお母さんだった。
「飲み物用意してあるから、冷蔵庫から好きなの取ってね」
「あぁ」
私が立ち上がる前に焦凍が立ち上がって飲み物を取ろうと冷蔵庫を開ける。
焦凍は迷わず冷蔵庫から取り出した牛さんヨーグルトと書かれた紙パックを手に取った。
何だろう、と一瞬思ったけれどそれを見るお母さんの表情が嬉しそうで勝手に少し納得してしまう。
(焦凍が小さい頃に好きだったのかな?そんな事覚えてるなんて焦凍の事、大事なんだな)
今は亡き母を思って少し泣きそうになった。