第8章 *愛=嫉妬*
§ ユイside §
二人並んで歩く帰り道。
自分の気持ちがぐちゃぐちゃになって、どうしたらいいかも分からなくて、無言で焦凍の隣を歩いた。
試合を見ていたり作戦会議をしていたり、何かをしていればこんなこと考えないで済む。
でも何も考えていない時、その感情はポッと穴の空いた心から這い上がってきて私の心に黒いモヤをかける。
焦凍の家の最寄り駅に出ればクラスメイトと会うことは殆ど無い。
私が焦凍の手を握ると、焦凍も無言で握り返してくれた。
視線の先には少し遠くの地面。
前を向いているものの視線は下を向いている。
(焦凍は今気まづいだろうなぁ……)
何も話さないくせに家に来るかという問いには返事をする。
なのに焦凍は文句ひとつ言わず、問いただす事もせず、ただ隣にいてくれる。
「ユイ、着いたぞ」
焦凍の声に顔を上げると、そこは焦凍の家の前だった。
「失礼します……」
促されるまま家に入り、手を引かれるまま焦凍の部屋へと向かう。
キシキシと小さな音を立てながら木造の廊下を歩き、部屋に入ると焦凍は頭を撫でてくれた。
そしておでこを合わせて「何かあったか?」と聞いてくる。
間近でも分かるほど優しい顔をした焦凍を見て、私は何だか泣きそうになった。
「なんで……私なの…」
「ん?」
「何で……私なんかの事…好きになってくれるの…」
今まで喉まででかかっていた言葉。それでも出てきてくれなかった言葉。氷のように固まっていた言葉は、焦凍にかかれば一瞬で溶けてしまう。
そして、溶けた言葉は涙となって私の目から溢れてきた。
「雄英に入って凄い人沢山いて……置いてかれるんじゃないかって…」
「あぁ」
「私なんかよりずっと強くて賢くて頼りがいのある子だって沢山いるんだよ……個性が強いだけの私よりも焦凍に相応しい人いるのに…っ…」
最初は嫉妬と言う名の分かりきった感情だった。
焦凍と仲良く喋ってるのが羨ましくて、自分もこんな風に話したかった。
でも、時間が経つにつれその感情は色んなものを巻き込んで【嫉妬】だけでは済まされなくなってしまった。