第1章 気づいてしまいました。(ヒデタダ)
それから、私はいつも通りを装いながら、ヒデタダさんとの距離をあけるように気をつけた。一気に離れると勘づかれるから、少しずつだ。
怪我の治療以外で私が役に立てることは少ない。
彼らのマスターとしての役割をきちんと果たせている自信もない。それなのに、私事で仕事に、戦いに影響を出すわけにはいかなかかった。だから、離れようとした。最初の方に呼び寄せた銃だっただけに、かなりの頻度で共に前線へ出たが、最近は後続組もかなり育ってきているのでヒデタダさんに頼らずとも問題なく戦えている。
(でもやっぱきついなぁ...)
今日も基地へ戻り、皆のケアを一通り終えたらもう夜中になっていた。フラフラとした足取りで、なんとか自室を目指す。
「...マスター殿」
する、と左手が掴まれた。
振り向かなくても相手はわかる。
『ヒデタダさん。どうしたんですか、こんな遅くに。早く寝た方がいいですよ』
声をかけながら手をかわし、するりと振り向いた。すると、思った通りヒデタダさんが立っている。もう寝る直前なのだろう、かなりゆったりした服を着ていた。
「あなたこそ。そんな覚束無い様子でメディックの仕事が務まりますか?」
『っ...はは、ごめんなさい』
私はいつも通り笑えているだろうか。彼がここに来たばかりの頃は、毎晩毎晩夜遅くまで起きて傷を癒していた。だから心配することなんかないって知ってるはずなのに、声をかけてくれるヒデタダさんは優しい。
『ちゃんと、やすみます。ありがとうございます。おやすみなさい』
こんな心にさえ気づかなければ、少し前のように文句を言われながらも隣で戦えたんだろうか。なんて、もう思っても仕方ない後悔がまたひとつ。
とうとう笑っていられる自信がなくなってヒデタダさんの元から離れようと背を向けた、その時。
「待ちなさい」
『!?』
すり抜けたはずの左手を思い切りひかれ、後ろから抱き込まれた。