第1章 気づいてしまいました。(ヒデタダ)
「大御所様の元へ向かわねばなりませんので、これにて失礼致します。マスター殿。」
いつものようにヒデタダさんがイエヤスさんの元へ向かうのを見送る。今日のヒデタダさんは大活躍で、数の不利をほぼ1人で打ち崩した。世界帝軍の新たな作戦基地をほぼ壊滅にまで追い込めたのはヒデタダさんの活躍が大きい。終わった直後、彼にしては珍しく清々しい笑顔を見せてくれた。
驚きすぎて一瞬、いや、かなりの時間固まってしまった。
とは言え傷は負ってしまうから、私が癒していたのだが。さっきまでの優しい笑顔はどこへ、もういつものヒデタダさんだ。イエヤスさんのことが何よりも大切で大事で。
(...イエヤスさんは、いいなぁ)
ぼうっと後片付けをしながら、自分の思考にハッとした。今、私は何を。
自分がまだ半人前で、100%の信頼は置けないと思われているのは、自分の身も自分で守れない弱さ故だ。それに、ヒデタダさんに限らず私にまだ心を開いてくれない貴銃士達も多くいる。
それなのに、ヒデタダさんのことを考えると胸が痛くなって。ヒデタダさんにあそこまで尊敬されるイエヤスさんのことが、羨ましくなって...
あぁ、これは。
おそらく名前をつけたところで叶う希望のない感情だ。私は気づいてしまったことを後悔しながらうっかり落とした包帯を拾い上げた。