第3章 秘密の花園【東堂尽八】✳︎リクエスト作品✳︎
こんな東堂くんは初めて見た。
綺麗な額から血を流す彼の姿に、心臓が嫌な音を立てた。
「東堂くん、、、血が、、、っ!」
「周りの人間?レース!?ハッ!?そんな事はもはやどうでもいい」
私の声を掻き消す東堂くん。
私の声は彼の耳には入っていないようで、
その声は彼のものとは思えないくらい冷たかった。
だけど、、、
こんなのは嘘だ
どうでもいいなんて嘘だ。
その腕を掴んだ手から、彼の震えが伝わってくる。
どうして、、、?
涙で東堂くんの顔が滲んだ。
「ッ!そんなこと言って、、、私を殴ったりしたら、あんただけじゃなくて、自転車部全員、試合になんて出られなくしてやるんだから!!」
東堂くんがギリッと奥歯を噛み締める音がした。
苦しそうな顔で彼が拳を振り上げる。
「、、、ひっ!」
押さえられている女子の悲鳴が聞こえた。
「東堂くん、やめてっ!こんなのっ、、、こんなの東堂くんじゃないよっ!!!」
私は東堂くんの腕にしがみ付き、叫んだ。
お願い、、、戻って!
東堂くんがハッとしたようにこちらを見た。
その顔は怒っているような、だけど今にも泣きそうで。
彼女を押さえ付けていた手にはもう力は入っていなかった。
「ごめんなさい。私のせいで、そんな顔させちゃったね」
私はギュッと東堂くんを抱きしめた。
知ってるよ。東堂くんが一番大切にしてるもの。
「東堂くん、いつもあんなに嬉しそうに練習に行くじゃない。部活の人たちのこと、いつだって嬉しそうに話してくれるじゃない。だから、どうでもいいなんて、お願いだから言わないで、、、?」
痛くなんてなかった。辛くなんてなかった。
だけど、あなたが来てくれて。気づいてくれて。
すごく、すごく嬉しかった。
今日、目の前に現れた東堂くんは本当にヒーローみたいで。
「心配してくれてありがとう、、、私、本当に大丈夫だから」
もう、それだけで。
こんなに嬉しいことはないの。
2人だけの秘密の場所で。
あなたとたくさん話せたこと。たくさん笑ったこと。
夢のような時間。
これからもきっと、ずっと憶えてる。
「東堂くん、私ね、もうすぐ転校するの。だから、そんな私の為に、、、自分に嘘付いたらダメだよ?そんなの東堂くんらしくないよ?」
あなたのことが大好きでした。